クチクラ

ちり取りポーカー

外来種に出会った時の何とも言えない気持ち

例えば、知らない昆虫を見つけたとする。
種類を調べてみると「東南アジア原産の移入種」などと説明されている。その時の「ああ…」という気持ち。

よく見ればそこら中にいる。そのたびに「ああ…」。

焦り、諦め、悲しみが混じりあったような感情。

生き物の分布域が変わっても、もちろんその生き物自体に罪はない。
それでも感じる、「ああ、なるほどね…」の気持ち。そんな距離感の昆虫たちを見てみよう。

 

キマダラカメムシ

台湾や東南アジアが原産とされる大型のカメムシ。江戸時代に長崎から侵入したとされるが、近年急速に分布域を広げている。もはやカメムシ科の中では一番目にする機会が多いかもしれない。独特なデザインと図体もあって見ごたえはあるが、会うたびに「お前かい…」と思う。

アメリカジガバチ

アメリカ原産。キゴシジガバチに似る。カラーリングがカッコいい!でも外来種か…それでもやっぱりカッコいい。会ったのはまだ一度だけ。

 

チャゴマフカミキリ

中国や台湾が原産らしい。なかなか種が特定できず、最終的に森林総合研究所の日本産カミキリムシデータベースで見つけるも、「ああ…」の気分になった。桜や藤棚に関係があるようだが、情報はあまり多くなかった。確かに藤棚のある神社にいた。

 

タテハモドキ

インドから東南アジア、南西諸島に生息する南方系のチョウ。温暖化の為か近年分布域を北上させつつある。鮮やかな色彩とド派手な眼状紋の主張が激しい。いずれ本州で一般的に見られるようになった日にはネットでちょっとしたバズになること請け合い。

 

クロマダラソテツシジミ

南アジアから東南アジアに分布。西日本に広く定着し、関東でも確認されているという。一見かわいいシジミチョウだが、幼虫がソテツの新芽を食うため深刻な害虫である。「かわいい」を覆い隠すには十分なマイナス面だ。

 

マツヘリカメムシ

アメリカ西部原産。日本では東京で最初に確認され、日本各地に分布を広げた。色といい質感といい「松」っぽいのはちょっとカッコいい。

 

アオマツムシ

原産地は明らかになっていないが、日本には明治時代に移入したとされる。他のどの直翅類とも違う独特なデザインが目を引く。こいつに「マツムシ」の名が与えられているのは納得できない。

 

ラミーカミキリ

幕末期から明治時代にかけて中国大陸から移入したとされる。楽しい見た目をしているが、カラムシの茂みに大量発生しているのを見ると「あらまあ…」と思わざるを得ない。

 

このように、当然彼らにも生き物としての魅力はある。タテハモドキの眼状紋は大好きだし、マツヘリカメムシの猛ダッシュは面白いし、ラミーカミキリのポップさは際立っている。

しかし背負っている影が大きすぎる。気候変動、人間の移動、在来種の駆逐、農作物や樹木への被害…。その大小は種によって違っても、「無」ではない。それが彼らへの感情を曇らせるのだ。

そしてまだ遭遇していない外来昆虫もたくさんいる。ツマアカスズメバチにムネアカハラビロカマキリにクビアカツヤカミキリにアカボシゴマダラ(赤いやつが多すぎる)…これらは現在特に問題視されている種だ。できれば出会いたくないが、それも時間の問題なのだろうか…。

ツチイナゴ黒化型?

ツチイナゴの幼虫が大フィーバー中。

草むらを見てみれば、あっちでムシャムシャこっちでモグモグ。

そこらじゅうの葉っぱの上に、あの黄緑色が乗っている。

そんな中で、見慣れないバッタが目に映った。

黄色を基調に、顔、中・後肢、背中、翅芽の基部にかけて黒。

ただ、形は完全にツチイナゴ。涙模様もある。

ツチイナゴの黒化型?そんなのがいるのか?

ネット上にも目撃例がないわけではないが、決定的な情報は見つけられなかった。

成虫まで育てたらどうなるのか?真の昆虫マニアならそうしたのかもしれないが…

思い出探訪、ハラビロカマキリ

※虫の画像が多数含まれます。虫に対して強い嫌悪感、敵対心をお持ちの方はご注意ください。

 

 

 

 

私はハラビロカマキリが好きだ。

ハラビロカマキリ
Hierodula patellifera 
カマキリ目 カマキリ科
体長45~70 mm
関東以南に広く分布し、成虫は7月~12月にかけて見られる。

 

カマキリの中で、昆虫の中で、
いや、あらゆる生物の中で一番好きと言っても過言ではない。

ところが、だ。

「どうして好きなの?」と聞かれるとめちゃくちゃ困る。

「好きなポイント」ならいくらでも挙げられる。

ずんぐりしたフォルム
愛嬌ある顔
鮮やかな緑色
前脚の黄色いポチポチ
真っ黒な口
力強い鎌、など…

黄色いポチポチ

人に説明するならこれで十分だろう。

しかし、これは「好きな理由」と言えるのか?

「好きなポイント」を挙げれば挙げるほど、それが無意味な「特徴の羅列」に思えてくるのだ。
こんな情報は図鑑なりネットなりで誰でも知ることができるのだから。

私は図鑑を眺めてハラビロカマキリを好きになったのではない。

「どうして好きなの?」に対して、
自分で納得できる、自分だけの答えが欲しい

どうする?

 

思い出を振り返ろう。

「好きな理由」を知りたいのであれば、真に見つめるべきは自分自身の心ではないだろうか。
彼らとの出会いの中で自分が何を感じたのか。それがどう変化していったのか。
そこに答えはあるはずだ。

記憶の断片

私の手元には、ここ数年で出会った19個体(それぞれが別個体であると仮定)のハラビロカマキリの写真がある。これらを古い順に見て、その時の思い出を振り返るのだ。

はっきり言って、人々に彼らの魅力を伝えることにはならないだろう。

それでも、自分の心に決着がつくのであれば…。

 

 

個体01

一番古い記録。スマホの機種変を機に、積極的に写真を撮るようになった。
ハラビロカマキリの幼虫が目についたので撮った。こんな目立つところにいて大丈夫なのか?

 

個体02

実家の網戸に引っ付いていた。住居にこのサイズの虫がいるとビビる。
カメラ目線がもらえてうれしかった。

 

個体03

木のてっぺんにカマキリを発見。見極め力が未熟だったため、ズームして初めてハラビロカマキリだと気付いた。

 

個体04

足元に突如現れてびっくりした。

 

個体05

オスはメスに比べて細くて小さい。そしてうれしいカメラ目線である。

 

個体06

危なっかしい体勢だが、それでもこっちを向いてくれた。
カマキリの視線には不思議な魅力がある。少しずつその虜になっていたようだ。

 

個体07

この頃には無視できない存在となっていた。
秋の日差しを浴びて枝にぶら下がっているハラビロカマキリは、完全に植物の一部と化していた。
枝葉の中に気配を感じ、立ち止まり、目と目が合う。その瞬間心ときめく。「おった!」くらいのことは口をついて出たのではないだろうか。

 

個体08

見慣れたド緑とは違う体色にハッとした。透き通るような青みを帯びた緑色。おそらくは羽化直後だったのだろう。
見せびらかすように広げた翅。張り巡らされた翅脈は繊細なガラス細工が如し。「いつもとは違う姿」に、なんだかいけないものを見ているような恥ずかしさすら感じた。

 

個体09

後ろから近づいたところ、こちらの存在に気付いたのか「見返りカマキリ」状態となった。
強い日差しによって浮かび上がった前胸背側の起伏が、力強い筋肉の存在を想像させる。ギラつく太陽の下でハラビロカマキリは最大限に輝くということを理解した。

 

個体10

この個体によって、私はハラビロカマキリが大好きであることを完全に自覚させられた。
美しいド緑、ポップな黄色のポチポチ、輝く白紋、力強い鎌、曇りなき眼、ずんぐりボディ。それら全てが陽光の下にさらされ、心に刻まれた。
この瞬間に私の中の「ハラビロカマキリ像」は決定づけられ、脳内の「好きな生き物ランキング」1位に躍り出た。(その前まで何が1位だったのかもはや覚えていない。カナブンだったかな?)

 

個体11

葛の葉の上に発見。もう少し近づきたかったが、すぐ逃げてしまった。
同じハラビロカマキリでも、個体ごとにそれぞれの距離感があるのだ。自分の配慮不足を恥じた。

 

個体12

足元にいきなり出現。危うく踏みつぶすところだったが、ふと「ハラビロカマキリは真上から見るとかわいい」ということに気づいた。
寸詰まりの体形が強調され、上目遣いも相まってとってもかわいい。これは大発見である。

 

個体13

路上に発見。ただ、この個体はかなり警戒しているようだった。迷惑にならないようすぐに離れた。

 

個体14

褐色型!?うわーっ!!ほんとにいるんだ!!
ハラビロカマキリの褐色型はレア。近くでよく見たかったが、ちょっと高いところにいたので無理だった。背伸びしてようやく1枚写真を撮ったところで隠れてしまった。
いわゆる「色違い」の良さは希少性だけではない。通常カラーと比較することで得られる「そこがそうなるのか!」「これは共通してるんだ!」という気付きが楽しいのだ。だからこそじっくり見たかったのに。

 

個体15

シーズン最初のハラビロカマキリ幼虫。再び彼らに会えることがうれしい反面、この子が成虫まで生き延びられるとは限らないという事実が少し悲しくもあった。

 

個体16

木にくっついてフラフラしていた幼虫。ハラビロカマキリ幼虫の動きはいつまでも見ていられる。今思えば動画に撮っておくべきだった。今度見つけたらそうしよう。

 

個体17

カマキリは長い手足で体を持ち上げるので、ローアングルで見るとカッコいい。見下ろすような視線と禍々しい鎌が迫力満点、威厳たっぷりである。その一方で拭い去れないかわいさもある。このバランスが実に絶妙だ。

 

個体18

細い草にぶら下がって揺れていた。日向ぼっこなのか、カムフラージュのつもりなのかはよく分からない。何らかの異常行動だった可能性もある。秋の青空がよく似合っている。

 

個体19

左: オオカマキリ 右: ハラビロカマキリ

カマキリの季節も終わる頃、衝撃の光景を目にした。組み合ったまま力尽きたオオカマキリハラビロカマキリ
この2匹がどうやって出会い、どんな戦いを繰り広げたのかは分からない。ただ一つ明らかなのは、その戦いに決着がつくことはなかったということ。
両者ともすでにボロボロで、そのままでもいずれ死んでいたであろうという状態。それでもなお戦いの宿命から逃れられない、それがカマキリという生物なのだ。
我らがハラビロカマキリも、そんな悲しき戦士の一種である。その事実をこれ以上ない形で思い知らされた。

 

 

以上が、写真に残された、自分の心の中だけにあるハラビロカマキリとの思い出である。

ある個体にビビッときたというよりも、何かのきっかけで徐々に惹きつけられていき、個体10によって自分の気持ちに気付かされたというのが真相のようだ。

一体何に惹きつけられたのか?
おそらくそれが「どうして好きなの?」に対する答えだ。
最初のきっかけ、引っ掛かり。それさえ分かれば…

 

 

記憶を辿っていくうちに、ある1匹のハラビロカマキリのことが思い浮かんだ。

いつのことだったかは覚えていないし、写真にも残していないが、忘れられない出会いだ。

 

個体 ??

自販機の横の隙間で、クモの古巣に絡まっていた。

翅の付け根を掴んで引きずり出した。まだ生きていた。
脚に引っかかった糸を取り、近くの木か何かにつかまらせた。

それだけだ。その後どうなったかは知らない。
言うなればその時だけの気まぐれ、偽善、自己満足ともとれる行動。
ただ、生きてるうちに会えたことはラッキーだと思った。

 

 

今思えばそれがきっかけだったのかもしれない。

その時のカマキリが生きててうれしかった。
その感覚が、ハラビロカマキリに出会うたびに脳裏をよぎる。

そんな出会いを積み重ねていくうちに、徐々にハラビロカマキリそのものの魅力に気付き始めた…

 

解釈としては都合が良すぎるだろうか。

もちろん過去の自分の感情を正確に思い出すことはできない。

それでも、どうやら自分のハラビロカマキリに対する気持ちが嘘っぱちではなさそうだということは確認できた。それが分かっただけでとりあえず良しとしよう。

今年もそろそろハラビロカマキリの最盛期。これからどんな出会いがあるのか楽しみだ。